第21回小野十三郎賞|2019年(平成31年)
受賞
犬飼愛生『stork mark』
2018年(平成30年)8月、らんか社
生まれ変わっても、もう一度「女」に生まれたいですか? 前作の第二詩集『なにがそんなに悲しいの』の発刊後、一児の母となった著者11年ぶりの新刊詩集。表題作『stork mark』をはじめ、母として、妻として、女としての生きざまをめぐる葛藤や逡巡、そして喜びを瑞々しい言葉で描き上げる、全30編(+α)。
らんか社ホームページより
タイトルの「stork(ストーク)」とは「コウノトリ」の意、つまり「stork mark(ストークマーク)」とは、「コウノトリの印」という意味で、生まれたばかりの赤ちゃんにしばしば見られる赤い母斑、赤あざのことを指します。母親になった著者が新たな視点から書いた詩篇が収められています。
出版元の「らんか社」は児童書籍を出版している会社ですが、詩集も扱っています。「モノクローム・プロジェクト」という企画で、「ブックレット詩集」シリーズを刊行。ラインナップは次の通りです。
- 奥主 榮『白くてやわらかいもの.をつくる工場』
- 横山黒鍵『そして彼女はいった――風が邪魔した。』
- 葉山美玖『スパイラル』
- 舟橋空兎『羊水の中のコスモロジー』
- 松井ひろか『デラ・ロッビア・ブルーの屋根』
- 北川清仁『詩集 冴』
- 北川清仁『ものがたり詩集 ぼくと冴』
- みやうちふみこ『カバの本籍』
- 鹿又夏実『リフレイン』
『stork mark』はこのシリーズの10作目「ブックレット詩集10」として刊行されました。ちなみにこのらんか社、以前は「セーラー出版」という名前だったようです。
さて、著者の犬飼愛生さんはどんな人なのでしょうか。『stork mark』サイン本を販売しているサイト「minne」よりプロフィールを見てみましょう。
幼少の頃より、新聞に詩の投稿をはじめ、大学で本格的に詩作を学ぶ。
大阪芸術大学文芸学科卒。関西詩人協会、日本詩人クラブ所属。
第3回『詩学』最優秀新人賞受賞。
詩集『カンパニュラ』『なにがそんなに悲しいの』
文芸誌『アフリカ』所属
詩集『ストークマーク』にて第21回小野十三郎賞受賞minne「犬飼愛生」より
幼いころより詩を書いていたことがわかります。今回の受賞は、『詩学』での最優秀新人賞に続けて二度目のようです。ツイッターには受賞のよろこびの言葉が書かれていました。
拙著詩集『ストークマーク』が第21回小野十三郎賞を受賞しました!
— 犬飼愛生 (@aoi_inukai) September 20, 2019
ずっと憧れだった賞…嬉しいです😂
小野十三郎賞に犬飼さんら:朝日新聞デジタル https://t.co/21Dy0rEjLF
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小野十三郎賞は詩集だけでなく、詩評論書にもおくられます。
受賞
添田 馨『クリティカル=ライン 詩論・批評・超=批評』
「言葉に内在する“美”の採掘を旨とする批評が、たしかな根拠のうえに立った行為として成立しうる臨界線のようなものは存在するのか――」(あとがき)。詩の批評を〈批評〉する。2000年以降の「現代詩手帖」発表論考を中心に集成、詩と詩論の現在軸をたぐり寄せる力作論集。
思潮社ホームページより
添田 馨(そえだ・かおる)さんは、「現代詩手帖」を中心に詩を評論しつつ、詩も書いています。直近で刊行された詩集は『非=戦(非族)』(響文社 、2017年)、『民族』(思潮社 、2013年)、『語族』(思潮社、2004年)。『語族』は第7回小野十三郎賞を受賞しています。つまり今回で、小野十三郎賞の詩集部門と詩評論書部門の両方を受賞したことになります。そんな添田さんの著作はどういった内容なのか、詩集『民族』についての説明を見てみましょう。
金融恐慌、大震災、出口の見えない経済不況……これら未曾有の災厄の渦中にあって、なお重苦しい暗雲が立ちこめるこの国の戦後=後の空間を、内側から食い破っていく圧倒的な表出の力。「民族」――この、永遠に未然のままの超越性に対する畏怖を孕み、真の恢復という未到の一点をひたすら黙示し続ける、異貌かつ驚異の言語群。
思潮社ホームページより
また2016年には『天皇陛下〈8・8ビデオメッセージ〉の真実』(不知火書房 、2016年)という書籍も発表していて、社会派の印象を与えます。さらに吉本隆明に関する書籍『吉本隆明:論争のクロニクル』(響文社、2010年)、『吉本隆明:現代思想の光貌』(林道舎、1989年)も刊行されています。詩や社会に正面から向き合い、論じ、書きとめてきたことがわかります。
選考委員
詩集部門:倉橋健一、小池昌代、坪内稔典
詩評論書部門:葉山郁生、細見和之、山田兼士