詩の賞

詩集におくられる文学賞、受賞作品についてまとめています。

第14回三好達治賞|2018年(平成30年)

受賞

上手 宰『しおり紐のしまい方』

2018年(平成30年)6月、版木舎

 

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上手 宰『しおり紐のしまい方』

「版木舎」という社名は出版社にしては聞きなれませんが、それもそのはず、ポスターやパンフレットなどを制作している会社でした。そのため、この書籍について説明した出版社のホームページは見当たらず、アマゾンでも取り扱いがない状態となっています。著者のホームページより、本書の概要を引用します。

詩集『しおり紐のしまい方』は2018年6月12日(単に誕生日です)
に版木舎より刊行された著者70歳の時の第6詩集です。

Poem corner of O.K(上手宰)より

著者の上手宰(かみて・おさむ)さんがちょうど70歳のときに刊行されたようです。ちなみに2008年、60歳を迎えた頃には、『上手宰詩集』(土曜美術社出版販売、2008年)が「新・日本現代詩文庫56」として刊行されています。上手さんはこの『上手宰詩集』を除き、これまで6冊の詩集を発表してきましたが、なかでも『星の火事』(版木舎、1979年)は第8回壺井繁治賞を受賞しています。さて、そんな著者のこれまでの歩みを見てみましょう。

1948年6月12日、東京神楽坂生まれ
東京都新宿区立津久戸小学校
東京都新宿区立牛込第三中学校
東京都立広尾高等学校業
国立千葉大学文理学部(哲学専攻)を各卒
1976年4月 専門紙新聞社に記者として入社
2008年7月 同社を定年退職

Poem corner of O.K(上手宰)より

32年あまり、新聞社で記者として働いています。入社時期は第1詩集『空もまたひとつの部屋』(青磁社、1975年)が刊行されたのとちょうど同じころです。その頃から、専門紙の記事や詩を執筆していたようで、同人誌も創刊しています。

1971年詩人会議に入会。1975年松下育男(まつしたいくお)、三橋聰(みつはしさとし)らと同人誌『グッドバイ』創刊。同誌退会後1977年に同人誌『冊』を創刊、編集人として現在に至る。詩人会議、日本現代詩人会会員。

大阪市ホームページより

今回の受賞作『しおり紐のしまい方』に収録されている詩のタイトルは、「帰宅途中」「轍のある草原」「手袋と春」「大きな本」など、表題作と同様に身の回りのものや出来事に着想を得て書かれたものであることがみてとれます。

 

続いて、もうひとつの受賞作です。

 

服部 誕『三日月をけずる』

2018年(平成30年)9月、書肆山田

日々の片隅にうずくまっている記憶の小さなかけらたち。
この日―それらは濃い影をともなって立ち上がり、特別な一日をかたちづくる。

書肆山田ホームページより

 

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服部 誕『三日月をけずる』

書肆山田から2018年に出版されていますが、『おおきな一枚の布』(書肆山田、2016年)『右から二番目のキャベツ』(書肆山田、2017年)と2016年より3年連続で刊行されています。そんな服部誕(はっとり・はじめ)さんのプロフィールは次の通りです。

1952年、兵庫県芦屋市に生まれる。大学卒業後、広告会社に勤務。30代に2冊の詩集を上梓したが、その後は詩作を中断したまま、2011年に定年を迎える。退職後、詩作を再開し、『おおきな一枚の布』(2016年)、『右から二番目のキャベツ』(2017年)、『三日月をけずる』(2018年、いずれも書肆山田)を上梓。大阪府箕面市在住、67歳。

大阪市ホームページより

ここに書かれている2冊の詩集とは、『首飴その他の詩篇』(編集工房ノア、1986年)『空を飛ぶ男からきいたという話と十八の詩篇』(編集工房ノア、1992年)ですが、現在取り扱っている書店は見つけられませんでした。

収録されている詩からタイトルを抜粋すると、「猫と歩道橋 宮川歩道橋(若宮町)」「轢かれた鶏 打出交差点(浜町)」「村上三郎は鵺塚のなかに消えた 松浜公園(松浜町)」と著者の出生地である芦屋市の地名が盛り込まれています。

 

以上のように、上手さんと服部さんは年代が近く、どちらも男性で、身の回りのことをテーマにしています。不思議と共通点のある第14回三好達治賞を受賞した2名でした。

 

選考委員
以倉紘平、池井昌樹、岩阪恵子、高橋順子